水素燃料電池自動車システムの爆発危険性

水素燃料爆発危険性

水素燃料爆発危険性の一般的特性

多くの燃料の中で,水素の爆発危険性は最上位に位置します.

静電気から発生する電気火花によって燃料と空気の混合気は着火します.水素-空気量論混合気(水素29.6vol%)の最小着火エネルギーは17μJで,炭化水素燃料の一つであるメタンでは100μJで,他の炭化水素燃料も同じオーダーのエネルギーです.従って,水素は他の燃料と比べて,1桁程低いエネルギーで着火し,それだけ着火し易い燃料です.混合気の着火は,衝撃摩擦火花によっても起きます.鋼材等を床に落とした際に,金属表面が擦れて,金属粉を火花として撒き散らし,これが着火源となって爆発します.

空気との混合気の可燃濃度範囲が広く,水素4-75vol%という広い濃度範囲で燃焼します.他の炭化水素燃料では濃度範囲は狭く,例えばメタンでは5-15vol%です.従って,燃焼濃度範囲についても,水素は危険性の高い燃料です.

混合気中を伝播する火炎の速度も高く,最上位にあります.水素濃度43vol%の混合気で層流燃焼速度は最大約3m/sとなります.静止空間を伝播する速度は約8倍(火炎膨張比が約8倍であるため)となり,更に,通常は乱流火炎になるので,伝播速度は増加して層流火炎伝播速度の5倍以上になります.従って,水素火炎は開放空間中を100m/s以上の速度で伝播します.火炎が高速で伝播すると,周囲の大気は圧縮されて圧力波が生じます.これは爆風と呼ばれ,大きな圧力上昇を伴い,周囲の器物損壊と人身被害をもたらします.こうした火炎伝播現象を爆燃(デフラグレーション)と呼びます.因みにメタンの層流燃焼速度は0.4m/sであり,水素と比べてかなり低く,他の炭化水素燃料の多くも1m/s以下にあります.

更に,火炎の伝播よりも被害が甚大となる爆発形態があります.爆轟(デトネーション)と呼ばれる現象で,衝撃波と燃焼波が一体となって超音速燃焼(音速の5倍以上)で伝播する現象です.圧力上昇は10-20気圧になり,周囲に壊滅的な被害をもたらします.この様な現象は,開放空間では,強い着火源(強力電気スパークや火薬)がないと起きませんが,考慮しておく必要があります.水素は他の燃料と比べて低いエネルギーでも爆轟し,爆轟の危険性に関しても最上位にあります.

爆風による被害と共に,爆発飛散物による被害も考慮すべきです.爆発で破壊された物体の破片が高速で飛散して,負傷者が出る可能性がありますし,飛散物が建物等に衝突して被害をもたらします.飛散物の保安距離(被害を受けないと推定できる爆発からの最低の距離)は,爆風の保安距離とほぼ同じか若干大きいのが一般的です.

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