水素燃料電池自動車と水素ステーション等関連システムの普及により,水素は我々の日常社会に初めて導入されることになりますが,水素ガス漏洩は「想定外」という判断は許されません.市街地や繁華街で衝突事故等によって,放出された水素が爆発する可能性は決して排除できません.衝突によって,安全装置が機能不全になることは容易に想定できますし,燃料タンクが破損する可能性も否定できません.周囲には,タバコの燃え殻,露店の火器,静電気等,着火源は数多くあります.又,トンネルや地下駐車場等の混合気が停滞しやすい状況では,被害は大きくなります.更に,日本は平和国家であり,しばしばその対応が軽視されますが,テロの格好の標的にされる可能性が高いと推測されます.水素をばら撒かれ,爆薬を仕掛けられた場合には,爆轟となり,周囲は壊滅的な被害を受けることになります.以上の様な事故の可能性について,事故の全てのシナリオを想定して対応策を立てることは不可能であります.水素燃料電池自動車の事故が,爆発事故につながり,周囲の人々に甚大な被害を及ぼす可能性があることは,水素燃料を使用するシステムの原理的欠陥であります.これは「不都合な真実(An Inconvenient Truth)」として受け入れなければなりません.
以上の結果は「水素社会」実現の可能性を否定するものではありません.水素100%燃料を我々の身近で利用することは困難ですが,主燃料+水素(例えば天然ガス+水素)といった混合燃料で水素を利用することは充分可能です.こうした検討は欧米で進んでおり,実用化は比較的容易と期待できます.