1983年3月3日スウェーデン・ストックホルム市中心部で起きた事故があります.(学会誌Journal of Hazardous Materials A105 pp.1-25,2003年に記載があります.)10Nm3ボンベ18本(質量13.5kg,水素燃料電池自動車ほぼ3台分の積載量)が大気中に放出されて,爆発した事故です.水素は軽いので,開放空間では直ぐに拡散してしまい,爆発事故は起こらないという説明をする人がいますが,これは誤りです.被害は,負傷者16人,自動車10台被災,最も近いビルの正面壁が大きく破壊され,半径約90m以内は窓ガラスが破壊されるものでした.当局の事故報告では,爆発中心から90mで過圧力(爆風圧力-大気圧)0.05気圧の爆風が発生し,放出された水素全量の約10%が爆発したと推定されました.0.01気圧の圧力上昇があると,1m平方のガラスでは100kgの荷重となりますので,物体全体に掛かる力は大きなものとなります.因みに人体が耐えられる過圧力は0.3気圧程度とされています.爆燃による爆風の過圧力は,火炎伝播速度の2乗に比例して増加し,メタンの場合と比べると2桁ほど高い過圧力となります.爆風被災範囲は,更にその2乗となりますから,被災面積は4桁上の値となります.この様に,燃焼速度の違いは爆発被害面積に大きく影響します.
市街地での水素爆発事故の例が少ないのは,水素爆発の確率が低いからではないかという判断は誤りです.ガスを扱う業者やガス爆発研究者の間では常識ですが,水素は危険燃料として従来認識され,市街地の人口密集地帯で使用されたり,運搬されたりする頻度が極めて低い燃料でした.水素は化学工業等の産業では多く使用されており,他の炭化水素燃料と同程度の頻度で同様な爆発事故を起こしています.